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INOYA MAKIKO | 金沢のアトリエ探訪 - 美しいガラスに宿る、偶然の色と遊び -

2025.10.08

カラフルでユニーク。繊細でいて、どこか野性的。金沢の住宅街に佇むデザイナー、猪野屋牧子(いのや まきこ)のアトリエ兼自宅からは、色彩豊かなアクセサリーやオブジェが日々生み出されている。その様子は、まるで終わりなき実験の連続である。




ガラスが生み出す、多彩な自然のモチーフ

デザイナー、猪野屋牧子の創作の原点にあるのは、自然の記憶である。北海道・室蘭の海に囲まれた環境で育った彼女にとって、イソギンチャクやウニ、ホタテといった海の生き物は、幼いころからの身近な存在だった。「旅先で水族館を見つけると、つい立ち寄ってしまう。特に南国のイソギンチャクや珊瑚など、カラフルでごちゃごちゃしたものが好き」と語るように、自然界の色やかたちが、創作の源となっている。
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アトリエ内の一角には、過去に制作した作品群が整然と並ぶ。

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2025年6月に「記憶 H.P.FRANCE」で開催した巡回展に向けた新作。

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本棚には、自然のモチーフやジュエリーに関する資料集が並ぶ。

猪野屋にとって、デザインの良し悪しの感覚とは、色や形や全体のバランスが“美しいと思えるかどうか”で決まる。頭の中のイメージが思うように再現できない時は、色を減らしたり、増やしたりしながら調整する。ただ、基本的には色を足していくことのほうが多く、シンプルだと寂しく感じるそうだ。そのため、無色透明なアクセサリーは、彼女の作品の中ではかなり珍しい。
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作業デスクには彩りどりのガラス材が並ぶ。

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数多のモチーフが重なって作られた精巧なガラスオブジェ。

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過去に制作したジュエリーのレクション。

猪野屋とガラスとの出会いは、大学時代にさかのぼる。香水瓶のパッケージデザインを手がけた際、「樹脂ではなく、ガラスで形にしたい」と感じたことをきっかけに、富山ガラス造形研究所に進学。吹きガラスやバーナーワークなど幅広いガラス技法を学んだ後、より作品の自由度が高いバーナーに惹かれていった。

創作を支えているのは、“偶然から生まれる美”への飽くなき探究心だ。色ガラスに金属、箔、貝の粉など、異なる素材の“食べ合わせ”を確かめながら、何度も実験を繰り返してきた。「素材によって膨張率が異なり、組み合わせによっては割れてしまうことも。だからこそ偶然生まれる美しさに出会える」と語るように、彼女のガラスワークは、緻密な理論と感覚的な直感の掛け合わせと言える。
もうやり尽くしたと思っても、ふとした瞬間に技術が向上した実感が訪れる。そんな発見がある限り、創作は尽きない。「ガラスが溶けていく様子が本当に綺麗で、仕事中も癒される。見ているホッとするし、美味しそうだなと思う」そう語る表情には、素材そのものへの深い愛着と、今もなお続く好奇心が滲んでいた。
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バーナーを使用し、1500°cの高温でガラスを熱していく。

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まずは、持ち手となる透明なガラスの幹を熱し、土台を形成。

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余分なパーツをカット。

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空気を入れながら形を整えていく。

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色がついたガラスや、金箔で後から色をつける工程。

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後から色を落としたりガラスを曇らせたり、調整も自在だ。

伝統工芸とアートの街・金沢での暮らし

金沢という街で過ごす日常そのものも、ものづくりの刺激に満ちており、アトリエの外で過ごす時間もまた、猪野屋の感性を育んでいる。「商店街で出会う器や刺繍の作家、ふらりと覗く器作家のギャラリーのウィンドウに刺激されたり。工芸やアートが当たり前のように根付いているから作家も多いし、日常的に工芸品やアート作品を目にしていて、敷居が低くなる」。
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風情ある古民家が点在する静かな住宅街。

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お気に入りスポットは、近所に広がる緑豊かな河川敷。作品の制作中は、この川沿いに腰掛けて一息つくこともあるそう。

さらに、エンタメ性に富んだ金沢21世紀美術館や、石川を代表する美術・工芸品、仏像などを展示する石川県立美術館も目と鼻の先にある環境だ。「最近は、古くて精巧なものも見ていると楽しい」と、石川県立美術館へも足を運んでいるという。「ものづくりがあたり前な環境にいるからこそ、また自分もやる気になったり、アイディアのきっかけを沢山得られる」と語る猪野屋。適度に都会である故に材料も調達しやすく、その一方で、人が密集しすぎているわけでもない、作家にとって住みやすい街のようだ。
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古民家をリノベーションした猪野屋の自宅兼アトリエ。縁側には、長時間ガラスを高温で温めるための電気炉を設置。

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縁側には研磨機も。

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同じく作家でありアーティストの夫・横野健一氏のビーナスをモチーフにした作品に触発され、制作したオブジェ。

H.P.FRANCEとの取り組みについて

H.P.FRANCEとの出会いは2006年。以来、20年近くにわたり、猪野屋のガラス作品は多くのファンの心を掴んできた。「自分の作品を通して、お客様が楽しんでくれていると感じると、やっぱり嬉しい。また頑張ろうと思える」と、彼女はやわらかく微笑む。数ある工程の中でも、指輪を作る時間が一番好きだと語る小さな面積の中で、最も自分らしさを表現できる指輪は、彼女にとってとりわけ特別なモチーフであり、H.P.FRANCEでも長年にわたり高い人気を誇るコレクションだ。
偶然と実験、そして暮らしの中で育まれる感性が織りなす、猪野屋牧子の作品。その手から生まれるガラスの多彩な表情は、私たちの日常に新たな彩りをもたらしてくれるだろう。
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玄関は、靴箱風の収納がそのままインテリアに。

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踊り場には天井までアートが展示されたスペース。ここは、横野氏の作品がメイン。

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居間の窓。昭和レトロガラスと木製の窓枠も風情がある。

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DIYでアレンジした風呂場。コンパクトなバスタブと異素材のタイル使いがスタイリッシュ。

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キッチンにはお気に入りのグラスコレクション。一部、猪野屋自身の作品も。

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日当たりの良い2階の一角は、横野氏のアトリエとなっている。

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家の至る所でアートに囲まれながら、互いのものづくりを尊重し、刺激し合う、素敵な夫婦像だった。

Shop Information

INOYA MAKIKO巡回展 開催のお知らせ

全国のH.P.FRANCE系列店にて、ガラス作家・猪野屋牧子(いのや まきこ)が本展のために制作した1点物の即売会と、H.P.FRANCEの40周年を記念する特別な受注会を開催いたします。

【即売会・受注会 巡回スケジュール】
■2025年10月8日(水)~28日(火) H.P.FRANCE 札幌店(大丸札幌店 3F)
■2025年11月7日(金)~27日(木) H.P.FRANCE Boutique 西宮店(西宮阪急 2F)
■2026年1月9日(金)~29日(木) H.P.FRANCE 京都店(大丸京都店 1F)

【即売会のみ開催】
■2025年12月5日(金)~24日(水) 記憶 H.P.FRANCE(新丸の内ビルディング 1F)
 2025年12月6日(土)14時-17時 デザイナー・猪野屋牧子来店
■2026年1月9日(金)~29日(木) H.P.FRANCE 福岡店(大丸福岡天神店 東館エルガーラ 3F)




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